
臨床教育連携ユニット 感染制御学分野
耐性菌制御学グループ
Department of clinical microbiology
Faculty of medical technology
Fujita health university
1. 分子・原子レベルでの
薬剤耐性機構の理解
細菌は抗菌薬による攻撃から逃れるため、様々な薬剤耐性機構を獲得してきました。現代では、既存の抗菌薬の全てに対して、薬剤耐性機構が存在すると言われています。このような薬剤耐性菌に対峙し、それによる感染症を制御・コントロールするために、まず必要なことは、薬剤耐性機構そのものを深く理解することです。そして、その理解により、薬剤耐性菌問題を克服するための手立てが見えてきます。研究室では、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析やタンパク質X線結晶構造解析などを行い、細菌の薬剤耐性機構を分子・原子レベルで理解するための研究を行なっています。
私たちは、世に知られていない新しい薬剤耐性機構を見出し、その機序を分子・原子レベルで理解することを1つの目標にしています。自らが見出した遺伝子であれば、発見者としてその遺伝子の命名をすることができ、薬剤耐性菌研究の歴史に名を残すこともできます。



SMB-1と命名したメタロ-β-ラクタマーゼの結晶(左)と分子モデル(右)
Wachino et al., AAC, 2011, 2013, 2016

Acinetobacter baumanniiのゲノムDNA解析
Wachino et al., AAC, 2019
2. 薬剤耐性菌感染症の克服に
資する創薬研究
細菌の薬剤耐性機構に対する理解が深まると、自ずと薬剤耐性機構を制御するための手立てが見えてきます。 その1つが、薬剤耐性機構を阻害する化合物(薬剤耐性阻害剤)の開発です。薬剤耐性阻害剤を使用し、抗菌薬が効かない原因を取り除くことができれば、抗菌薬が効かなかった細菌は、抗菌薬が効く細菌に戻ります。このような状況を作りだすことができれば、相手が薬剤耐性菌であっても、既存の抗菌薬で十分に治療することが可能となります。現在、研究室では、薬剤耐性阻害剤の開発研究に取り組んでいます。既存の抗菌薬と私たちが開発した薬剤耐性阻害剤を併用する新しい薬剤耐性菌感染症治療法を確立することを目標としています。研究室では主に創薬標的の検証、化合物のスクリーニング、in vitroならびin vivoでの薬効評価等を実施しています。

IMP-1メタロ-β-ラクタマーゼに対する阻害剤探索を実施したところ、22671個の化合物のうち1つに阻害活性が認められた。
Wachino et al., mBio, 2020

IMP-1メタロ-β-ラクタマーゼと阻害剤との相互作用
Wachino et al., mBio, 2020
3. 薬剤耐性菌検査法の開発
薬剤耐性菌に関する情報解析は、微生物検査室の重要な仕事の1つです。微生物検査室には、院内で分離された薬剤耐性菌の性状を迅速かつ正確に把握することが求められます。その際に欠かせないのが、薬剤耐性菌の検査・識別法です。薬剤耐性菌の検査に関しては、遺伝子検査がスタンダードとなりつつある今日ですが、日本全国の微生物検査室を見渡すと、その普及率は決して高くはありません。その理由は、遺伝子検査に関する機器や試薬が高額であるからです。そこで、研究室では、ディスク拡散法や微量液体希釈法といった微生物検査室で日常的に行われている表現型検査法を基盤に、薬剤耐性菌の検査法を開発しています。このような検査法であれば、簡便かつ安価に、技量や経験によらず誰でも実施することができます。新しい検査法を開発し、微生物検査室における薬剤耐性菌診断技術向上に貢献することを目標としています。
